ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

資本金1億円と5億円の違い

こんにちは。

先日ニュースを眺めていると、こんな記事が目に止まりました。

 労働組合との合意を経て正式に決める。希望退職に伴う割増退職金などの費用は約350億円を見込み、16年3月期に特別損失として計上する。一方で、人員削減で150億円(今年10月〜来年3月分)▽賞与半減で70億円▽賃金・手当カットで30億円−−の経費削減効果を見込む。

シャープといえば『資本金1億円に減資します!』という目の付け所が違うプランをぶちまけたあと『やっぱり5億円に減資します!』という、なんとも微妙な軌道修正を行ったことで有名になりましたね。でも、資本金1億円と5億円って、何が違うんでしょう?ざっと検索してみても、このタイトルの記事が出てこなかったので、簡単にまとめてみることにします。

f:id:lacucaracha:20150605071717p:plain

資本金1億円のメリット

まず、資本金1億円以下になると、どんなメリットがあるのでしょうか?資本金は、会社の最も基礎的な資金の量を示し、税制を始めとし各種法令等で『優遇策』の基準として引用されています。そのリストは、会計士さんがまとめてくださってますので、こちらを引用致します。

その中でも、まず影響しそうなのは『法人事業税の外形標準課税の対象外』でしょうか。税金に馴染みの薄い人にとっては、『外形標準課税』なんて言われても、なんのこっちゃ(´・ω・`)でしょう。その対象外となることで、シャープにはどれくらいのメリットがあるのでしょうか?

外形標準課税ってなんだ?

 企業が支払う税金には、色々な種類がありますが、額が大きいのは『法人税』『法人住民税』『事業税』の3つですね。

  • 法人税:国に払う税金。利益で計算。
  • 法人住民税:都道府県と市町村に払う税金。利益+固定金額で計算。
  • 法人事業税:都道府県に支払う税金。利益+給与・配当・利息+資本金で計算。

通常税金は、『儲かった部分』から支払うものですので、利益が真っ赤っ赤のシャープは支払う必要がありません。ただし、法人事業税については、利益が出ていなくとも払わなくてはならない部分があります。それがいわゆる、『法人住民税の外形標準課税』です。

税率は、都道府県によってばらつきがあります(超過税率)が、ひとまず東京都のサイトから確認してみましょう。

まずは、付加価値割。ここでいう『付加価値』とは、企業が事業を通して生み出した価値・・・というと難しいのですが、ざっくり企業が支払った『給料』『利息』『地代』と考えてよいでしょう。企業会計上は『費用』になるが、GDP計算上『総生産』に含まれるものって感じですね。

 さて、それぞれの数値について、シャープの有価証券報告者から追ってみましょう。(http://www.sharp.co.jp/corporate/ir/library/securities/pdf/119_4q.pdf)

人件費は1280億円、利息は95億円、地代は比率が額が小さいのか記載が有りませんね。合計1,375億円に税率が0.756%ですので、だいたい10億円くらいでしょうか?

あともう一つ、『資本割』についても確認しましょう。こちらは資本金と資本準備金に対して掛けられます。その額はだいたい4,800億円くらいです。税率は、1,000億円までが0.315%で、それ以上が半額になりますので、こちらもざっくり10億円くらいですね。

これらの税金は、資本金が1億円未満であれば対象外ですので、あわせて20億円分くらいの節税になります。

 繰越欠損金の持ち越し額も変わる

もうひとつ、シャープに影響しそうな資本金が1億円未満で使える優遇策が『繰越欠損金の持ち越し額』に関わる項目です。

通常、所得税等は黒字でなければ払う必要はありません。ですが、事業が起動にのって黒字化した途端に税金を払うとなると、大変ですね。その為、黒字であっても、過去の赤字分と通算して利益を計算することが許されています。それが、繰越欠損金の制度です。

繰越欠損金は、現在9年間の持ち越しが出来ますが、資本金が1億円以上の大企業であれば、赤字額は80%分しか持ち越しが許されませんが、1億円未満であれば、100%合算することが可能です。

例えば、毎年100万円の赤字を出している会社が、9年目にやっと900万円の黒字を出せたとしましょう。これが、資本金1億円以下であれば、過去の赤字は全て合算でき、税金は一切かかりませんが、大企業が繰り越せるのは80%までですので、260万円分の黒字分に対して税金がかかります。

f:id:lacucaracha:20150605203635p:plain

いつ、黒字になるか分からないシャープにとって、資本金を1億円以下にしておいて、可能な限り赤字が繰り延べられたほうが良さそうですよね。

とはいえ、そもそもこの制度って、黒字化が難しい中小企業だから全部繰り越せるようにしようという趣旨のもと作られた制度なんですね。それが、如何に大赤字でもシャープのような大企業が使うのは・・・、ということで資本金5億円になったんでしょうね。

資本金5億円とそれ以下の違い

では、何故『5億円』なのでしょうか?資本金が5億円以上だと、会社法上の『大会社』となります。

大会社となると、会計監査の実施や監査法人の設置などが求められるようになります。ただ、いずれも上場企業であれば求められるものなので、直接関係有りませんね。

むしろ、重要なのは資本金5億円以上の会社の100%子会社は、例え資本金が1億円未満であっても各種優遇が使えなくなる課税規定でしょうね。

また、資本金が3億円未満だと、下請法の対象となり、支払の遅延から強く保護されますが、これもさすがに関係ないでしょうね。

いずれにせよ、資本金なんて多くても何も良いことは無いことが分かると思います。では、どうして資本金が1億円以上の会社があるのかというと、株式の発行で調達した資金は資本金に組み入れる必要があるからです。

資本金と借入金の最大の違いは『返済期限・義務』の有無です。借入金は、事業が上手くいこうといくまいと期日までには返済しなければなりません。一方、資本金であれば『出世払い』と同じで利益が出ない限り、配当を出す必要がない(というか出せない)ため、比較的確実に資金の回収が可能な場合は借入金、新製品の開発などどうなるかが見えない場合は資本金で調達するのがセオリーです。

この辺りの話については、下記が簡単で分かりやすいですね。 

ざっくり分かるファイナンス 経営センスを磨くための財務 (光文社新書)

ざっくり分かるファイナンス 経営センスを磨くための財務 (光文社新書)

 

 あと特殊な使い方としては、剰余金のままだと『配当可能な利益』が膨らみ、ハゲタカファンドに狙われる可能性が高まるので、買収防衛策の一環として利益を資本金に振り返る、という使われ方もします。

シャープはこれからどうなるのか?

まずは、改めてシャープの現状について確認しましょう。まずは、個別の財務諸表から見てみると、過去の利益の蓄積である『繰越利益準備金』は既に前期でマイナスになっていましたが、今期で各種積立金も含めた『利益剰余金』レベルでもマイナスになってしまいました。

経営の基盤となる資本・資本剰余金を足しあわせて、やっと株主資本のプラスを首の皮一枚で維持できている状態です。

f:id:lacucaracha:20150605232956p:plain

連結ベースで見ても、大変厳しい状況です。現金やお金に変えられそうな運転資本を足しあわせても、到底有利子負債が返済出来そうにありません。つい、5〜6年前までは、総資産の半分近くを資本で賄っていたことから考えると隔世の感が有ります。

f:id:lacucaracha:20150605075719p:plain

f:id:lacucaracha:20150605075730p:plain

さて、これからどうなるのか?ですね。シャープ発表の資料をみると、

  • 優先株で2000億円調達 → 銀行に対し発行し借金の返済(DES)
  • 優先株で250億円調達 → ファンドに発行し成長資金を調達する

ことを考えているようです。優先株で調達した資金も、普通株と同様に『資本金』『資本準備金』に組み入れる必要がありますので、1億円に減資しようと、5億円にしようと、あまり意味は無いかもしれませんね。

ではでは、今日はこの辺で。